「借入はできるだけ減らしたい」
多くの経営者がそう考えています。
確かに、借入には返済義務があり、リスクが伴います。
ですが、借入を減らすこと自体を目的にしてしまうと、経営の力を弱める結果につながることがあります。
特に、中小企業にとって重要なのは、「手元資金をできるだけ多く保有する」ことです。
手元資金をしっかりと確保しておくことが、経営の安定性を高め、どんな状況でも柔軟に対応できる力を生み出します。
今回は、「手元資金を厚くしておくことの重要性」と、経営リスクに対する備えについてです。
「借入を減らすこと」が経営リスクになる理由
「借入を減らす=健全経営」と考える経営者も多いですが、実はそれが経営リスクを高める場合があります。
借入を減らすことが必ずしも経営の健全化につながるわけではないのです。
資金調達の柔軟性の低下
借入を減らしすぎると、いざというときに必要な資金を素早く調達できなくなります。
「融資実績が少ない=銀行との関係が薄い」と判断され、急な資金需要が生じた際に、審査や対応に時間がかかることがあります。
銀行は「日頃から取引がある会社」に優先的に対応します。
つまり、借入を減らすことは、将来の資金調達力を失うことにもつながるのです。
突発的な資金需要への対応力の低下
手元資金が薄いと、仕入れや修繕の支払い、急な新規取引など、予期せぬ支出に対応するのが難しくなります。資金の「クッション」がない経営は、想定外の出来事に弱く、対応が後手に回ってしまいます。
手元資金を多く保有することで、突発的な支出やトラブルに対する柔軟な対応が可能になります。
急な案件への対応や、修繕費用、仕入れの支払など、様々な支出に即座に対応できる体力が生まれます。
銀行との関係性の希薄化
借入がまったくなくなると、銀行との定期的な取引(融資・返済・報告)が減ります。
その結果、「この会社は融資を受けられない状況なのでは?」という印象を持たれることもあります。
借入が途絶えると、「資金需要がない」、「動きがない」と判断され、いざという際に借りにくくなるリスクがあります。
成長機会の損失
無借金経営にこだわりすぎると、事業拡大のチャンスを逃すことになります。
新規事業、設備投資、人材採用など、成長のための投資には一時的な資金が必要です。
借入を避けて自己資金だけで運営しようとすると、「攻めの一手」を打てないまま、成長が止まることがあります。
また、借入を適切に活用することで得られる「レバレッジ効果(自己資本に対する収益率の向上)」も失われます。
つまり、借入を減らすほど、経営のスピードと収益性は落ちていくのです。
借入は「資産」と「負債」の両建てである
借入は「負債」であると同時に、「資産の裏付け」でもあります。
借入を受けた瞬間、手元資金が増え、経営が安定することもあります。
つまり、借入は貸借対照表上で「プラスとマイナスの両立」が起きているのです。
借入を活用することで得られる資金を「どのように運用するか」を考えることが重要です。
手元資金を厚く保つためには、借入金を適切に活用することも一つの方法です。
経営リスクを減らすための「有事に備える戦略」
最も重要なのは、「資金ショートしないこと」、そして「有事の際にに資金調達できる状態を維持すること」です。
- 手元資金(現預金)の目標額を設定し、確保する:
- 目安として、「平均月商の3ヶ月〜6ヶ月分」を最低限の手元資金として保有することを目標にしましょう。
売上がゼロになっても、この期間は支払い続けられる「生命線」になります。
- 目安として、「平均月商の3ヶ月〜6ヶ月分」を最低限の手元資金として保有することを目標にしましょう。
- 資金繰り表で「未来」を把握する:
- 過去の損益計算書だけではなく、「資金の流れ」を常に把握し、数ヶ月先の入金と支出のズレ(資金ギャップ)を予測することが重要です。
- 資金不足の予測が出た際には、慌てることなく、余裕をもって金融機関に相談できる体制を整えます。
- 銀行との「良好な関係性」を維持する:
- 定期的に銀行に経営状況を報告し、自社の信用力を高めておくことが、将来の円滑な資金調達への最大の備えとなります。
- 「借入を減らそう」と考えるのではなく、手元資金を増やすことを意識することが大切です。
借入を恐れるのではなく、「リスクを乗り越え、成長するための資金」として戦略的に活用する視点を持つことが、中小企業の安定した、そして力強い経営を実現します。